在米ライターの探訪記:ポルトガルで見た「再生」への活力と苦悩

在米ライターの探訪記:ポルトガルで見た「再生」への活力と苦悩

安らぎの地はいずこ?

3月後半に、筆者は配偶者とともに初めてポルトガルを訪れた。ポルトに2泊、リスボンに5泊という欧州基準で考えるなら短い旅だったが、素晴らしい文化遺産や経済復活の息吹、さらには街の「再生」に伴う苦悩を垣間見ることができた。

筆者は米国永住権を取得し、米人配偶者とともに米国テキサス州ダラス市で暮らしている。しかし今やトランプ政権下でイデオロギーの対立による心の溝は深まるばかり。生活面でも医療費は上がる一方で、銃撃事件や人種間の対立、テロ、薬物中毒の蔓延など根深い社会問題があり、ストレスがたまる日常生活だ。

50代半ばになり、もっと「おだやかに暮らせる場所」に移り住んだ方が良いのではないかと、配偶者と話すことが多くなった。安全で物価が安く、人がやさしいと評判のポルトガル訪問は、その「新天地探し」の第一弾ともいえる旅だった。

ゆったりした美しい街ポルト

大航海時代の先陣を切り、歴史的に日本とも縁の深いポルトガルだが、米国で久しぶりにポルトガルという名を耳にしたのは、2008年の世界金融危機の頃だった。財政危機下にありながら、金融財政改革が自力でできそうにない南欧の4カ国、ポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペインは、その頭文字をとって「PIGS」と揶揄された。

しかしポルトガルは着々と経済回復を続け、2013年に1月には17.4%だった失業率も2019年2月には6.3%と目覚しい改善ぶりを見せている。またこの数年、日本の観光客からも、ポルトガルは観光地として注目を浴びていると聞いた。

米国ダラスから、スペインのマドリード経由で、まずはポルトに到着。こぢんまりとしたポルトの空港から地下鉄に乗り30分もすれば市内に着く。地下鉄やバス、路面電車(トラム)、鉄道など公共交通機関が充実している。急な坂道が多いものの、元気のいい人は、徒歩でも主な観光スポットを回ることができる。中途半端な公共交通機関しかなく、車が必需品のダラスとは大違いである。

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第2の都市のポルトは、ポルトワイン発祥の地  © Kei Katase

 

ポルトガル北部にある第2の都市ポルトはポート(ポルト)ワイン発祥の地で、人口は約24万人。世界遺産に登録されている旧市街やドン・ルイス一世橋、アズレージョと呼ばれるタイル装飾が美しい18世紀の建物や、ハリーポッターの撮影場所ともなったポルトガル最古の本屋などがあり、大いに歴史を感じさせる街だ。

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ポルトガル伝統のタイル「アズレージョ」が美しいサント・デフォンソ教会  © Kei Katase

 

筆者はダラス市の「歴史保存地区」に住んでいるが、そもそもダラスに入植が始まったのは19世紀半ばで、市として成立したのが1841年だから、欧州とは歴史の時間軸が違うと痛感させられる。

老朽化した建物をリノベで再生

ポルトでは、ショッピングでにぎわう「サンタ・カタリーナ通り」の端にある小さなホテルに宿泊した。ホテルで働くアナさんは、筆者のパスポートを見るや「ワインはお好き?今日がお誕生日でしょ。ぜひ、ワインをプレゼントさせてほしいわ」と、いきなり予想を超えた心遣い。「人がやさしい」というのは本当だった。

4階建ての古い建物を改装したそのホテルは全部で18室。建物の真ん中に大きな螺旋階段があるが、エレベーターはない。客室は小さめだが、近代的なデザインのシャワーや洗面台があり、Wifiも完備している。階段近くのホールには、大きな木のテーブルとコーヒーマシーンやクッキーが置かれ、宿泊客が集えるお洒落なカフェのようになっていた。

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リスボン以上にレトロなポルトも改築ラッシュ  © Kei Katase

 

サンタ・カタリーナ通りには、1921年創業の「カフェ・マジェスティック」から、有名ブランドのブティックやレストランが沢山あり、人にぶつからずには歩けないほど混雑する日も多いらしい。しかしファッショナブルな通りというより、田舎の洋品店をほうふつさせる庶民的な店や、時代をさかのぼったようなみやげ物屋、老朽化した建物も少なくない。

アナさんは、「ポルトはゆったりした美しい街で大好きだけど、昔はあまりに老朽化して、ちょっと汚かったわね。この4、5年でものすごく変わったの。ここも老朽化したビルを全面改築してホテルにしたのよ。これからもっと変わると思うわ」と教えてくれた。

レトロな街と近代的なマンション

ポルトのカンパニャン駅から列車で3時間ほど南下すると、リスボンに到着する。首都だけあって、高層ビルもあり都会風。リスボンでは、美術館、劇場、本屋、カフェなどが数多くあるシアード(Chiado)地区にある短期アパートに滞在した。

Photo 4 apartリスボンで滞在したお洒落なアパートホテル。© Kei Katase

 

この短期アパートも、古い建物を改造したようだが、こちらはエレベーター付き。建物の出入り口、部屋のドアもすべて暗証番号の鍵で管理されている。大きなフレンチドア付きの1LDKの室内は明るく、日本のお洒落なマンションのようだ。

リスボンには高級ホテルから、B&B、アパート型ホテル、ユースホステル、Airbnbのような民泊まで、多数の宿泊施設がある。

観光ブームの陰で

リスボンにもジェロニモス修道院やべレンの塔、詩人バイロンが「エデンの園」と賞賛した近郊のシントラには、8世紀にムーア人が建設したとされる城跡や、ポルトガル王の夏の離宮など数々の世界遺産がある。

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8世紀にムーア人がつくった城壁を今も歩ける  © Kei Katase

 

リスボン市内の高台にはサン・ジョルジュ城、テージョ川に面したコメルシオ広場、石畳と路面電車、古い下町の雰囲気が残るアルファマ地区など、どちらに足を向けても歴史が視界に飛び込んでくる。さらに街のあちらこちらにはヒップな落書きアートがあり、街歩きの楽しみをさらに盛り上げてくれる。これでは観光地として人気が高まるのも当然である。

筆者が訪れたのは本格的な観光シーズン前だったが、べレンの塔やシントラのぺナ宮殿など、人気の観光スポットはどこも入場待ちの列ができていた。リスボンの人口は300万人弱。リスボンを訪れる年間の観光客数は一年にリスボンを訪れる観光客の数は、それより多い450万人に膨れ上がっている。

街中で、観光客を揶揄するような落書きを目にした。観光収入が経済復興を後押ししていることは間違いないが、時に騒がしく、傍若無人な観光客に苦々しい想いを抱く住民もいるのだろう。

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落書きアート見物も楽しい。観光産業をテロと揶揄するものも。© Kei Katase

 

ゴールデン・ビザによる外国人投資の功罪

ポルト以上にあちらこちらで目につくのが、古い建物の改修工事と不動産販売の看板である。ポルトガル経済復興の起爆剤は、国外からの投資集めにあった。

ポルトガルは2012年、ゴールデン・ビザと呼ばれる投資家ビザ制度を開始した。50万ユーロ以上の不動産(または指定再開発地区にある築後30年以上の不動産の場合は35万ユーロ以上)に投資すれば、居住権が取得できる(数年後には永住権、最終的にはポルトガル市民権(国籍)の取得も可)という制度である。しかも完全に移住しなくとも、年にごく短期間ポルトガルに滞在するだけで居住権を維持することもできる。

中東や中国などから多数の投資家がこの制度を活用し、ポルトガルはすでに42億ユーロ以上の投資を手にしてきた。こうした資金で、老朽化した建物が、次々と改装されていく。ポルトでアナさんが「この4、5年で大きく変わった」と言っていた理由はここにあったのだ。

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ほとんどの老朽化した建物は、今や売り物だ   © Kei Katase

住宅市場の自由化による「再生」の弊害

しかし不動産の需要が高まることは、不動産の高騰を意味する。リスボン中心地ではこの2年ほどで、不動産価格は30%の上昇を見せている。観光関連や不動産産業は潤っても、リスボンの平均賃金は月約860ユーロ程度にとどまっており、一般市民にとって住宅費の高騰は痛手だ。

65歳以上の低所得層で、1990年以前に賃貸契約を結んだ住人を守る法はあるものの、あの手、この手で古い住民を追い出し、古い建物を高値で開発業者に売りたいと画策する家主は沢山いるようだ。

不動産屋の張り紙を見ると、リスボン市内のマンションは70万ユーロ前後で、新築の豪華な物件では200万ユーロとか、それ以上のものもある。ほとんどは、外国人向けなのではないか。今や歌手のマドンナもリスボン近郊のシントラの住民である。

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誰が撮っても絵になるリスボンの街並み © Kei Katase

 

投資する人がおらず、街が老朽化していく一方では産業も育たず、悪循環だ。とはいえ外部からの投資マネーで、結局は昔からの住民が追い出されるという矛盾は確かにある。同じようなことは、ダラス市でも起きている。景気回復とともに、低所得者用のアパートは次々と小ぎれいなマンションに改築され、家賃は3倍に跳ね上がった。住宅建設ラッシュは続いても、そこに住むのは元の住民ではなく、他の土地から移ってきた中・高所得層なのだ。

また会う日まで

筆者も配偶者も、ポルトガルにすっかり魅了されはしたが、すさまじい坂道を毎日歩き回ったおかげで、最終日はヨレヨレだった。さらに年をとったら、果たして坂道生活に耐えられるだろうか?石畳の道は細く、階段も多く、車椅子の人を街で見かけることはなかった。

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世界遺産を含め、見どころ多い。時間切れで行けなかった所の方が多い  © Kei Katase

ポルトガルには、「リスボンで遊び、コインブラに学び、ポルトで働き、プラガで祈る」という言葉があるそうだ。老後の安住の地を探す旅はまだまだ続きそうだが、今回、訪れる機会のなかったポルトガルの素晴らしい街の数々を、とりあえず足が丈夫なうちに再訪しようということで、意見が一致した。

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日本人には鰯の炭火焼が嬉しい© Kei Katase

 

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ポルトワインを飲んで、ハッピーに。うーん、癒される。© Kei Katase

 

top photo: シントラにある大人気のぺナ宮殿は観光シーズン前でも大賑わい。© Kei Katase