デンマーク: 性善説の国、政府の舵取りに信頼<br>世界コロナ日誌⑥

デンマーク: 性善説の国、政府の舵取りに信頼
世界コロナ日誌⑥

デンマーク在住の造形作家・キュレーターである高田ケラー有子さんから、「世界コロナ日誌」に寄稿していただいた。デンマークは、ドイツ、フランスなど、外出禁止令を徹底する国とは、一線を画しながら、社会生活を完全には止めてしまわず、それでいて医療飽和を招かないことに成功しているように見える。現地の生活者の実感はいかに。

<トップ写真:スーパーには充分なトイレットペーパーが。ロックダウンから9日後の3月22日(日)のこと © Yuko Takada Keller>

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まだまだ肌寒く風も冷たいデンマークですが、ここのところずっと晴天で、ご近所の芝刈り機の音も、ここそこから聞かれるようになりました。欧米中で、罰則付き外出禁止令の出る中、デンマークでは、まだそこまで厳重な措置は行われておらず、長閑な風景の中にも粛々と時間が流れています。雲ひとつない透き通る青空が広がっているのを見ていると、大気もきれいになっているのか、自宅籠りの日々を、庭や窓辺で楽しむために、自然が人間社会に宿題を与えてくれているようにも感じるこの頃です。

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私の住む町のメインストリート。普段は歩行者天国なのに、Stay at Homeで人影もまばら ©Yuko Takada Keller 

感染者の増加が穏やかに

デンマークでは、2月27日に最初の感染者が確認され、3月13日からロックダウンの状態となっており、このまま4月13日のイースター休暇最終日まで継続されます。3月30日、新たにフレデリクセン首相の会見があり、この間、入院患者と重症者の増加速度が少し減速しており、心配していたオーバーシュートには至っておらず、国民の多くが理解と協力をしてくれたことに対し、感銘を受けたという言葉がありました。その上で、ここから2週間が正念場であり、イースター休暇が終わるまで、このままの状態を保つことが大変重要であるとの認識が表明されました。

3月30日現在の感染者数は、2755名(内フェロー諸島168名、グリーンランド10名)で、入院患者533名、集中治療137名、人工呼吸器の必要な重篤患者119名、死者は77名となっており(人口580万人)、政府が目指している、入院患者数のグラフが、急勾配の増加ではなく、緩やかな山を描く兆候が出ています。これをこのまま維持するには、ここ2週間が要であり、政府が念頭におく、①高齢者と弱っているものを守ること、②医療崩壊を防ぐこと、③経済ダメージを最小限に抑え社会機能を維持すること、の実現に向け、現時点でさらに2週間の国民の協力を要請しました。

入院患者・集中・重篤数 lite

デンマークにおける入院患者数(黄)、集中治療(青)、重篤患者数の推移(グレー)の推移

出所:デンマーク健康省 https://www.sst.dk/da/corona/tal-og-overvaagning

信頼してついていける政府

一方、欧州の他の国々やNYなどとは異なり、デンマークは今のところ外出禁止にまでは至ってはいません。でも、学校はもちろん休校、公務員の事務系は自宅勤務、一般企業でも同様の対応をほとんどの会社で取っていて、10人以上の集会禁止(感染者数が23人になった時点ですでに大規模イベントは中止または延期を打ち出し、今後の状況によっては3人以上禁止になる可能性もあり)で違反した場合は罰金(1,500クローネ:約24,000円)も課せられます。言われるまでもなく、老いも若きも大多数はきちんと守っていますが、都市部での違反は発生しており、全国でこれまでに134件の検挙があったとのことです。

一方、経済支援パックも、貸付でも、一時的な均一のばらまきでもなく、ここ3ヶ月間の対策として、一般企業向けには、失業者を少なくするための給与補償支援策(75%を国が、25%を企業が負担で30,000クローネ:約48万円、年間5日間の休日返上が条件)、フリーランスにも条件付きではありますが、コロナが理由での売り上げ損失が30%以上見込まれる場合、損失収益の75%まで支援をうけることができる(上限23,000クローネ:約37万円)パッケージがすでに打ち出されています。できる限り抜け落ちる人がいないように、すでに追加や修正(給与保障の上限は当初23,000クローネでした)がなされています。

経済支援 lite

経済支援パッケージのイラストによる説明(発表当初の上限23,000クローネでの表示)

それでも止むおえないリストラも一部では進んではいますが、段階的であっても、一歩先を読んだ素早い判断で、大胆な対策を全政党一致の体制で実施しているので、国民も信頼してついていくしかないと思っています。そして、いつも首相の言葉には嘘がないと思えるのは、国民目線でいたわりやねぎらいの気持ちをご自分の言葉で添えられることが大きいです。

3月13日の首相の会見の後、「子どものための記者会見」(日本語字幕付き)として、首相が子供達の質問に答える番組が放送されました。温かい言葉も添えながら、子供にもわかりやすく、好感がもてます。

Mette Frederiksen - Socialdemokratiet
信頼を集めるフレデリクセン首相 (写真は2009年)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

© Fotograf Rune Johansen- www.runejohansen.dk

互いを信頼し尊重する連帯感の心地よさ

もちろん買い物には行けます。商品の買い占めなどもロックダウン直後に多少あったものの、2〜3日ですっかり落ち着き、商品は十分あります。私の住む郊外の町では、買い物客同士も、互いに気を使いながら買い物をしています。すれ違う時は物言わずスッと間を開けますし、レジ待ちは、床に「待ちポイント」のテープが約2メートル間隔で貼られています。私が商品を選んでいると、同じものが欲しい人は、少し距離を開けて、私が棚から商品をとり終えるまで、後ろで距離を開けて待ってくれています。もちろん、これも人口密度の少ない郊外の町だからこそできることですが、それでも市民の動きが、政府の対策を信じて同じ方向を向いているのは確かです。

スーパーだけではありません。キオスク(新聞雑誌、タバコなどを売る売店)や薬局などの対面レジには、ロックダウンとほぼ同時に、アクリル板などの透明の仕切り版がいち早く設置されました。一部の個人商店や薬局などでも、入り口にはSTOPの表示が貼られていて、入る前に中にどのくらいの人がいるかみてから、一人が出たら一人が入る、と言うような形で、とにかく接触感染をできるだけ避けるように、お互いに気を配っていることがとても気持ちいいくらいです。

レジごとにビニールで仕切り スーパーでは、レジ毎に、ビニールのシートで仕切られている ©Yuko Keller Takada

COVID-19日常的な注意事項

市民への注意事項を告知する掲示版 ©Yuko Keller Takada

ロックダウンに入ってから、愛車を夏タイヤに交換してもらいましたが、聞くところによると、欧州の他の国では、それは「不要不急」ではないので、とてもできないことのようです。タイヤ交換を依頼するガレージに電話で予約をして、夏タイヤを車に積んだまま外に停め、鍵だけポストに投函して、窓の外から手を振って挨拶し、1時間後に取りにいきました。すべての場所でそうであるとは言いませんが、イースター休暇中も25%OFFのSaleをして店を開けるところや、時短営業をしたり、まだ寒いのにドア全開にして営業している個人商店もあります。それぞれが工夫をこらし、できる範囲で感染防止を最大限に心掛けながら、少しでも平常の生活や経済活動を続けようとしていることが 肌で感じられます。

バスの乗降口も、前方の運転手のいる方のドアは閉まっていますし、電車のドアの開閉ボタン(日本とは違い、電車のドアの開閉は自動ではないので)も、今は手ではなく、肘でしましょう、と言う表示もついています。どこに行っても、まず、その場で働いている人々の安全を確保しながら、互いに気をつけよう、と言う意識が確実にあると感じています。

それでも過酷な医療現場の状況

医療の現場こそ、その場で働く人々の安全が確保されなければならないのですが、実際には、過酷な現実がデンマークでもあるようです。デンマークでは、ロックダウンが始まった3月13日の段階で、病院はコロナ対応に専念し、院内感染や医療崩壊をできる限り防ぐための措置として、命に関わる患者以外の一般診療及び治療を閉鎖しています。

前述のように、3月30日時点で、入院患者と集中治療患者の増加が減速し、医療崩壊には繋がっていません。ただ、実情では医療現場で働く人々のPCR検査は症状が出るまで行われないそうです。なぜそのような不安な状況下で働かなければならないのか。実際に濃厚接触ということで14日間隔離しなければならなくなると、現場で治療や看護に当たる者が少なくなるため、対応しきれなくなるようです。また保健省のガイドラインでも「医療従事者との濃厚接触の可能性がある場合は、14日間症状が出ないか注意深く見る必要がある」とは書かれていましたが、隔離はされず、症状が出てからの検査になるとのことでした。医療従事者にとっては、症状がなくても陽性の可能性はあり、そのために家族に感染してしまう不安があるという声が大きく、感染リスクの高い状況下で、精神的な負担もかなりのものになっているであろうと推察されます。1日も早く医療従事者のPCR検査ができる体制になるようにと願っています。

日本との違いに当惑

デンマークでは、日本と違ってマスクの効果が具体的に立証されていないことから、マスクをつけることは推奨されておらず、誰もしていない状況です。私も息子も一切つけていません。これについての検証は専門家ではないので、なんとも言えませんが、日本では、マスクはしているものの、週末の外出自粛をするために、その前日、開店前から長蛇の列で間隔開けずに並び、開店と同時に中に入るとごった返している店内の様子がニュースで流れていましたが、こちらの意識としては、いくらマスクをしていてもいまだにこんなに人が密集しているのか、と思うと、信じがたい光景で、かなり怖いと感じました。

デンマークでも、集会禁止を守らず検挙される人も中にはいますが、22歳になる息子も、友達と会いたい時は、自主的に野外でしか会わないようにしていて、時間も最大1時間、距離も2メートル開けて2人だけにしておくと言っているくらいです。挨拶もハグや握手をせず、拳を合わせる感じです。それは、私(家族)に感染するリスクを作りたくないから、というのが大きな理由です。

マスクに関しては、実際に効果があるのかはわかりません。この先日本が感染拡大せずに今のまま感染者数が増えていかなければ、マスクをしていれば多少の密集があっても大丈夫だったということにもなるかもしれません。それでも実際に接触感染がある以上、日本の多くの若者にも、「自分が陽性になっても構わないから」という理由ではなく、知らないうちに家族や友人にも感染させてしまうかもしれないというリスクを認識してほしいと思います。デンマークもこれでマスクをしたらもっと効果があるのかもしれないですが、現時点では、政府の方針にしたがって、このままついていこうと思っていますし、マスクをしようとも思っていません。

どの国の政策にも完璧ということはないと思いますが、その中で政府の方針を信頼してついていくことのできるデンマークにいてよかったと、つくづく思っています。そしてこんな状況だからこそ、普段できなかったことや考えなかったことが、見えてくる機会にもなっていますし、家にいるからこそできることと、その時間を「ヒュッゲ」に(デンマーク人が大切にしている居心地のいい時間や空間、親しい人と楽しく過ごす雰囲気をさす言葉)楽しみたいと思っています。

(本文中のデータ等は3月30日時点のもの)

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<寄稿者プロフィール>

高田ケラー有子/Yuko Takada Keller

1958年大阪生まれ。造形作家、キュレーター。京都市立芸術大学大学院修了。日本在住時よりヨーロッパ、アメリカなどで作品を発表。 1997年よりデンマーク在住。近年はデンマークを中心にヨーロッパ、日本で作家活動。 キュレーターとしても、日本のアーティストをデンマークに紹介する展覧会やイベントの企画をしている。 近年は日本とデンマークの学校交流事業にも関わる。 コミッションワークとして、耳原総合病院(大阪府堺市)、岡山県早島町町民総合会館、兵庫県看護協会への作品を手がけている。デンマークでは文化会館Portalen、Bagsværd教会、Hillerød図書館、Kulturhavn Gillelejeに常設展示。 個人サイト はこちらから。著書に『平らな国デンマーク~「幸福度」世界一の社会から~』NHK出版生活人新書

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