フランスその2:家事、収入、DVの危険な関係<br>世界コロナ日誌⑳

フランスその2:家事、収入、DVの危険な関係
世界コロナ日誌⑳

私が暮らすフランスでCovid-19の感染拡大防止ためにロックダウンが始まったのは3月17日。5月11日から徐々に解除され始めた。

学校へ通う子どもを持つ女性たちの多くがテレワークをしながら家事をこなし、オンライン授業を受ける子どもの宿題を見てヘトヘトになっている。我が家には、40代前半の姪が泣きついてきた。

「子どもがうるさくすると仕事してる夫の機嫌が悪くなる。泣かれないように、子どもをおんぶしたままトイレに行ってる。私に自分の時間ができるのは子どもたちが寝てからだよ、もう疲れた〜」と。

「でも、家事くらいやってくれるんでしょ?」と聞くと、「指示出せばね。でも何が嫌って、私が全部家事を終えた頃に台所に現れ、『えっ、もう全部片付けちゃったの? 言ってくれればやったのに』って言うのが我慢ならない」と。

ロックダウン解除後の離婚ラッシュが予感される。

 ロックダウン下で女性がバーンアウト

 マルレーヌ・シアパ男女平等大臣は、Harris Interactive研究所に「ロックダウンが男女平等に与えるインパクト」についての調査を依頼した。4月8日から9日にかけて、18歳以上の国民1025人を対象に調査が行われたが、その結果を基にして、同大臣は「女と男は同じロックダウンを生きていない! 女性のバーンアウトを懸念」と発言した。

  • 女性の58%は、パートナーより家事・育児を多く負担していると感じている。もちろんこれは、通常時(73%)よりは少ない
  • 1日あたり2時間以上を家事・育児に費やしていると答えたのは、女性では54%だが、男性では35%に過ぎない
  • 食事(一日3食、プラスおやつ)の用意は主に女性がしていると答えたのは全家庭の63%にものぼる。

男女ともに家にいる状態でも、家事・育児は圧倒的に女性が担い続けている。そして極め付きは、この状況に満足しているか?という問いに対して、子持ちのカップルでは、男性の93%がYesと答えていことである。もちろん、女性の76%も「私はこれで満足!」と答えているので、「本人がそれでいいなら、構わないんじゃない?」と言う人もいるかもしれない。

しかし、子持ちカップルでは、約40%が「家事分担が喧嘩の原因になっている」と答えている上に、「ロックダウン家庭が崩壊する」という別の統計では家事を理由にしばしば口論する女性のうち30%がDV(言葉と身体的)被害にあっているという結果も出ているのだ。そう考えると、口論になるのを避けるために、「私はこれで満足だもん」と納得したフリをする女性の数は、実際は、かなりの数に上るのではないだろうか。

Natsuki

<「職場での男女平等」を書いたポスター、パリ20区で> ©Purado, Natsuki

家事分担の不均等はリビドーに影響する?

Insee (国立統計・経済研究所)が2012年に出版した『家事と男女平等』という統計結果がある。これは1986年から2011年にかけての家事労働に関する統計だ。結果はというと、25年間で女性の家事労働の時間は25%減少したが、男性の家事労働時間は6分増加したのみ。女性の家事労働時間の減少はひとえに電子レンジをはじめとした家庭電化製品の発達のおかげなのだ。

フランスでは70年代に激しいフェミニスム運動が起き、今や、「私の身体は私のもの」という意識はすっかり根付いた。中高生から避妊ピル常用は普通、堕胎も当然の権利と考えられている。女性は子どもが欲しくなれば、男性に忖度せず、勝手にピルをやめて自由に産む。しかし男女間での家事分担だけは根付かなかったようだ。もちろん男性たちは頭の中で知識としてはわかっている。「女性は家事する道具じゃないから分担しなきゃ」と。しかし、彼らの身体に家事分担は刷り込まれていない。

家事分担が均等でない理由の一つは、ズバリ『金』である。男性の方が稼ぎが多いと答えたカップルは全体の四分の三にも及ぶ。それゆえに彼の仕事の方が「立派なもの」であり優先されがちなのではないだろうか? 女性は稼ぎが少ない(脚注①)、だからその埋め合わせに、引け目から家事を引き受ける、時にはそれがキャリアを阻む、だから稼げない。これでは悪循環である。

そして家事と金の関係は、統計を見ても明らかだ。昨年の世論調査研究所(Ifop)の統計「カップル間の家事分担」(注)では、「私の方がパートナーよりかなり多く家事をしている」と感じる女性の60%が、月収1000ユーロ以下の低所得者、そして66%が「性的にも感情的にも満足な関係を築けていない」と感じている。家事分担の不均等感は女性のリビドー(性欲、性的衝動)を殺すのはフランスだけなのだろうか?

国民平均賃金より低い看護師の賃金

ワンルームで暮らすカップルの間で、口論から暴力に発展し、女性は首を絞められ、隣人が通報。警察が到着すると、女性は、「大したことじゃないの、狭いからイライラしてケンカしただけです。よくあること」と言って告訴したがらない。それでいて、警察が部屋の中を捜索すると、冷蔵庫の裏に錆びついた斧が出てきた。「これは?」と聞くと、彼女は「私のです。いざという時のために」と言ったとか。斧を隠し持っていたというところに女性の最後の誇りが感じられるが、彼女は老人ホームで働く看護アシスタントとあり、やりきれない気持ちになった。

By Sara Eshleman - httpswww.health.milNewsArticles20200506DoD-to-honor-nurses-during-National-Nurses-Week-2020, Public Domain, httpscommons.wikimedia.orgwindex.phpcuri

<Covid-19 現場で働く女性看護師(イメージ写真、アメリカ)>
©Sara Eshleman – httpswww.health.milNewsArticles20200506DoD-to-honor-nurses-during-National-Nurses-Week-2020, Public Domain, httpscommons.wikimedia.orgwindex.phpcuri

 

今、コロナ戦線の一線である病院や老人ホームは、俗に「女性職場」と呼ばれる女性労働者が圧倒的に多い職場だ。公立病院職員の女性比率は全体で78%、看護師で87%、看護アシスタントで91%。(脚注②)

そして、女性比率が高い職種の常として賃金は低い。特に、フランスの看護士の賃金は国民平均賃金より9%低く、2015年のOECD(経済協力開発機構)の発表「平均賃金と比較した看護士の賃金」(脚注③)では先進29か国の中で下から5番目、なんと最低に近い。政府は医療従事者にCovid-19ボーナスとして最高1500ユーロまで支払うと発表したが、これも日本円では17万5千円ぽっち……

癒す、手当てする、汚物を処理する、助ける、看取る、耳を傾ける、こうした行為は、「女性だから生まれながらに身についていて簡単でしょ?」と考えられがちだが、実際には、学び、習得し、経験し、たえず新しい状況に適応しなければならない職業である。賃金の見直しがここ数年望まれてきたが、政府は耳を貸さなかった。そして、今、この医療崩壊だ。

 


マルレーヌ・シアパ男女平等大臣自らがSNS上で「2日に一人の割合で女性がDV殺害されている」、「男性の家事分担は不充分」と盛んに発信し、『やってる感』を誇張するのも、国民の意識を変えることに少しはつながるかもしれない。

しかし、医療が大きな注目を浴びている今だからこそ、ボーナスなどというその場しのぎではなく、「女性職」である看護・介護職の賃金を国が先頭に立って見直すこと、こうした具体的な一歩こそが男女の差を縮め、ひいてはDV防止につながるはずだ。

<小さい頃からの無意識な性役割をちょっぴりシニカルに表現したかわいいビデオ>@Kattrin

 

脚注①:非正規雇用が多いこと、昇進が困難であること、また女性が多い職場での賃金が低いことから、女性の所得は男性の所得より約9%から25%低い。そして男女同賃金法にも関わらず、民間では同じポストでも平均9.3%、女性の方が所得が低い。https://www.lefigaro.fr/social/2019/03/04/20011-20190304ARTFIG00188-les-3-chiffres-de-l-inegalite-salariale-entre-les-hommes-et-les-femmes.php
脚注② https://www.lemonde.fr/idees/article/2020/04/18/covid-19-il-faut-revaloriser-les-emplois-et-carrieres-a-predominance-feminine_6036994_3232.html
脚注③ https://www.oecd-ilibrary.org/docserver/health_glance-2017-58-fr.pdf?expires=1588926381&id=id&accname=guest&checksum=F878C150651FAC0B7B2F0DA02AA624DC
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本記事は、WAN(Women’s Action Network)と同時掲載。関連記事も合わせてお読みください。

記事は、ライターのプラド夏樹さんの了解を得て、加筆・修正。著書に『フランス人の性 なぜ#MeTooへの反対が起きたのか』(光文社新書)。Yahoo 個人blogでも発信中。