英国:大ピンチ、期待の星はスナック財務相?!<br>世界コロナ日誌②

英国:大ピンチ、期待の星はスナック財務相?!
世界コロナ日誌②

Keep safe、Stay safe――「じゃあまたね」という代わりにこんなフレーズをよく耳にするようになった。「コロナにかからないようにね」という意味だ。英国のコロナ状況はイタリアの2週間遅れだという。イタリアで1日あたり死者数はここ数日間600人から800人弱、これまでの死者総数は約5000人。英国では3月5日に最初の死者が出て以来、数が増え続け、今は1日あたり50人余り、総数では300人以上が命を落としている。イタリアと同じ推移をたどるならば、4月上旬に、英国でも毎日800人以上が新型コロナウィールスによる肺炎で命を落とすことになる。そうなったら、もともと慢性的に問題だらけの英国の公立病院NHSがパンク状態になるのは目に見えている。英国人よ、おまえもか――と嘆きたくなる「隔離政策」の日々で、期待の新星はスナック財務相?!

<トップ写真:ショッピング中のSocial Distancing(人との距離をあけること)を呼び掛ける大手スーパー入口の張り紙 ©Yumi Ishikawa>

英国も遅ればせの隔離政策

それを防ごうと英国政府は「social distancing (人との距離を取ること)」を強く呼びかけ始めた。具体的には「なるべく人と接触するな、会う時には2メートル離れろ」という内容だ。3月20日の金曜の夜には突然、パブやレストランが閉鎖を命じられ、全国民にも事の重大さが身に沁みたはず、と思いきや、翌土曜には、久しぶりに晴れ間が広がった地域が多いこともあり、公園やショッピング街に繰り出した人たちも少なくなかったようだ。飲食店は全て閉まっているし、他の店もぼつぼつと閉店を始めて、ふだんよりは静かな街。でも、イタリアの二の舞を防ぐには大半の人が家にとじこもることが必要。ということで、いよいよ英国政府も強権を発動してロックダウンを命じるのではないかという憶測が強まる。すでにロンドンの公共交通機関は間引き運転を開始し、今後の警備や移動制限に備えて2万人の兵士も動員されている。

Panic Buying、英国人よ、おまえもか

もうひとつ、政府が苦慮しているのは食料や日用品のPanic buying(買占め)だ。大きなスーパーでは陳列棚のほとんどが空っぽになってしまい、開店と同時にその日の入荷分を買おうとする買い物客の行列が延々と店外に延びる。

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大手スーパーの食料品売り場 © Yumi Ishikawa

 

テレビのニュースで、NHS病院の看護師が「長時間勤務の後で食料品を買おうとしても何も残っていない。食べる物がない状態でどうやって健康を保てというの」と、泣きながら訴ええる様子が放映された。筆者は、英国国民に対して、こういう時には自分勝手な買占めなどせず、落ちついているものと期待していたが、現実はとんでもなかった。いつ全面封鎖になり、外出もままならなくなるかもしれないという漠然とした不安も買占めに拍車をかけているのだろう。とは言え、人口3000人の筆者が住む村では、こじんまりしたスーパーには商品はそこそこ残っていて、必要な物はとくに苦労なく揃えることができた。買占め客は大型スーパーに押しかけているようだ。

日本にそっくりの給与補てん

政府は、一時的失業者に所得の8割、月額2500ポンドまでを雇用主への交付金という形でとりあえず3ヶ月支払うと発表。政府がこの規模で民間の賃金を肩代わりするのは前代未聞のことで、この施策を発表したスナク財務相も「空前」という表現をスピーチで何度も使っていた。産業界はこの政府の施策を大歓迎しているが、取り残されたのは自営業の人たち。労働者全体の15%にあたる自営業者は、タクシー運転手、芸術家、コンサルタント、イベント業などあらゆる業種にわたっている。筆者の周りでも、収入が突然途絶えてしまい、貯金を取り崩しても1~2ヶ月しか生活費が出せないという人たちがけっこういる。そうした人たちをどうやって救済するのか。政府の発表では、自営業者への救済は制度上、運用上、むずかしいとのこと。困窮している自営業者は週95ポンド弱の疾病手当相当額と通常の社会保障のセーフティーネットで支えるということらしいが、被雇用者と比べて、あまりにも支援が少ない気がする。

期待の新星スナック財務相

5週間前に就任したばかりのスナック財務相。いい加減な発言やはったりの多いジョンソン首相は、数日前にも「コロナウィールスなんて、あと3ヶ月で追い払えるさ」と全く根拠のない強気発言をしてメディアに叩かれていた。それに比べて、スナック財務相は、冷静で賢そうで、それでいて温かみの感じられる表情と話し方で、人気急上昇中のインド系英国人だ。39歳という若さ、フィットネスが趣味というだけある引き締まった体形ときびきびした動きで、これまで政治にとんと興味のなかった30歳の次女もファンのようだ。

 

Recized Rischi Sunak Creative Commons Attribution 2.0 Generic JUne 2014

期待の新星スナック財務相 Creative Commons Attribution 2.0 Generic

 

日曜日の朝、スナック財務相のにわかファンの次女から、電話がかかってきた。「母の日、おめでとう」。そう、3月22日は、英国では母の日。「一人で、退屈じゃない?」と聞くと、今、ボーイフレンドが訪ねて来て、近くを散歩しているという。「ええっ、そういう接触はしちゃいけないんじゃないの」と驚くと、「いいんだも~ん」けろっとしている。ボーイフレンドは家族ともしょっちゅう行き来しているから、母の日ということで、近くに住む両親の家も訪ねるかもしれない。こういう人がいるから、政府が外出抑制を呼びかけても、感染は広がって行くのに。

ジョンソン首相も、記者会見で「母の日にお母さんの所に顔を出すんですか」と聞かれると、「もちろん。お祝いの気持ちを伝えるし、できれば顔を見たいと思っている」と回答。あれれっ、母親に会いに行くつもり? 首相官邸筋から、後になって「スカイプで」と補足というより訂正の発表があった。そう言えば、ジョンソン首相の父親は、かつてEUの主要機関(欧州委員会、欧州議会)で務めた経歴をもちながら、EU離脱の国民投票で、初めは残留派のちに離脱派へとくら替えした。それなのに、最近、フランス国籍を申請したことが話題になっている。

 

英国人に自主規制は可能?

週末は、全国的にまっさおな空に水仙の黄色が映える素晴らしい天気となった。春の訪れを感じさせる晴天に母の日も重なって、各地の公園や海辺や観光地には人々が押し寄せてしまった。イングランド及びウェールズの最高峰のスノードン山も、ふもとの駐車場に入ろうとする車の渋滞が周囲の道路にまで延びるくらい混んでいたらしい。政府の勧告に反して出かけた人たちにはいろいろな理由があったろう。母の日だけでなく、しばらく出かけられないから最後のチャンスとか、お上の言う事なんて従わないという反発とか、自分の地域にはまだ感染者がいないから大丈夫という開き直りとか。中にはニュースや新聞は読まないから最新の状況や政府勧告を知らなかったなんていう人もいたかもしれない。

結果的に週末に各地でかなりの人出があったことを憂慮し、政府は「自主的に接触の抑制ができないなら、強硬措置を取るしかない」と、公的権力により、外出を3週間禁止するとを決めた。生活必需品の最低限の買い物と1日1回の屋外での運動を除いて、家にいなければならない。大半のお店は休業。同居していない家族や友人を訪れることも結婚式や洗礼式もだめだが、葬式は行ってもよいという。

今後、これでも感染拡大の防止効果が充分に出ないようならば、オーストリア、ドイツ、ポーランドが行っているような国境封鎖、さらに外国人の入国禁止など、より厳しい措置へとエスカレートしていくのだろうか。娘たちや孫とも数ヶ月会えなくなるのだろうか。長期間のロックダウンの間に、日本の年老いた母に何かあったらどうしよう。つらつら考えていると、不安で胸が張りさけそうになる。