スペイン:閉ざされたマドリードで想うこと<br>世界コロナ日誌⑪

スペイン:閉ざされたマドリードで想うこと
世界コロナ日誌⑪

欧州でイタリアと並び多くの感染者を出しているスペイン。政府のコロナ対策のキーパーソンである保健省緊急対策調整局F.シモン局長や、サンチェス首相のご家族など、中央・州政府の要人も、また、医療関係者の感染も後を絶たないという。普段はオリーブやオリーブオイルの専門家として幅広く活躍するマドリード在住の田中富子さんに、不安に包まれた封鎖生活で想うことを綴ってもらった。

<トップ写真:緊急対策調整局でのP.サンチェス首相(中央)とF.シモン局長(右) 3月4日 Photo by Pool Moncloa / Borja Puig de la Bellacasa, Ministry of the Presidency. Government of Spain>

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初めに、新型コロナウイルスに感染された方々の早期の回復と亡くなった方たちのご冥福をお祈りしたい。

私はこれを2020年4月上旬のマドリード市内にて書いている。ご存じのとおり新型コロナウイルス超感染集中都市となっているマドリード。3月13日の「警戒事態宣言」以降、どの通りも人影が消え、ひっそりと静まり返り、忘却された空間となった。

警戒事態宣言から全てが変わった

その時から全てが変わった。スペイン人は、外出や人と集まることが大好きなのに、それが一瞬にしてできなくなってしまったのだ。その後、不要不急な労働でも禁止となり、4月4日にはサンチェス首相が4月26日までこの状態を延期することを発表した。

1 lite マドリードのメインストリート“グランビア”。有名ショップ、ホテル、劇場、デパート、レストラン、バールが立ち並び24時間喧騒が絶えないこの場も閑散としている。写真提供:玉木晴子
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買い出しのためソーシャルディスタンスを保ちながら待っている人たち。写真提供:水谷奈津

 

警戒事態発令後、私は基本的に週に1度だけ外出をし(平日の午前中)、その際に全て用事を済ませるようにしている。発令から3週目くらいまでは外出しても街には人の姿がほとんどなく、その静寂さが逆に怖いくらいであったが、4週目に入った4月7日は、若干人通りが増えていたように感じた。単に偶然だったかもしれない。ただ、その前数日、感染者数が安定してきたという報道があり、人々の気分が緩みだしたのではないかとふと思った。すると、スペイン中央政府は翌日8日、27日以降は外出時の行動を厳しく制限はするが、現在出ている26日深夜0時までの外出制限を、そのまま延長しない可能性が高いと発表したのだ。イースター休暇に入る直前である。私は唖然とした。まだ緩和するのは誰が考えても性急過ぎる。

案の定、その翌日サンチェス首相は前日の政府発表を翻すコメントを出した。「このままだと再度15日間の延長をせざるを得ないと。」イースター休暇を郊外や地元で過ごしたい人々が移動し、その検挙数は1日で4,000件以上もあったというのだ。ここで緩和してしまったら、再び感染者数は爆発的に増え、これまでの自粛の意味が消える。経済活動をある程度動かし、財源を絶やしたくないのは理解できる。しかし、ワクチンも治療薬もない現状で、尚且つ自由奔放なスペイン人の国民性を考えると、今後どのタイミングで自粛を緩和し、感染者ピークをコントロールし、医療現場の飽和を防ぎながら集団免疫を増やしていくかが注目されるところであろう。

長引く監禁状態の中で

日本では『自粛』だが。スペイン語では、幽閉や監禁の意味でもある『Confinamiento』という語彙が使われる。まさしく監禁状態にある、今のスペイン人のメンタル状態、DV、そして失業率の増加も社会問題になってきているのも事実だ。この監禁状態がさらに続くとなると、状況も政府の対応も刻々と変化し、心配が募る。

日本の家族と離れ一人マドリードに住む私は、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」問題辺りより、自分や家族、友人、仕事関係の方々の健康、経済、Covid-19の終息時期、今後の生き方などが頭を巡っている。日本の家族や友達に何かあっても、自分が感染していた場合、他人に感染させる可能性があるので行けないのか? 政府の対策は? 今後どうやって生きて行こうか? 何度も不安と恐怖に押しつぶされそうになり、光の見えない谷底に突き落とされた心境が続いた。前代未聞のテーマに向かい合わなければならないのだ。現在のところ各自が自宅で自粛をして、LINEのようなコミュニケーションアプリで連絡を取り合ってお互いに励まし合い、一人ひとりが感染しない、人に移さないということをやるのが精一杯。引きこもってスペインや世界の状況を調べながら、自問自答する毎日が続く。

よいこと、意味を求めて

だが、悪いことだけではなく、良いニュースも耳にする。

スペインでは、市民のSNSによる呼びかけで、毎晩8時に、不眠不休で働いている医療関係者に敬意と感謝を捧げる拍手を送ろうという動きが始まった。各自ベランダや窓を開け、外に向かって拍手するのであるが、その際、隣近所で励まし合い頑張ろうと一緒に歌を歌ったり、クイズをやったりしてストレスを軽減している。これはスペイン人のどんな状況でも楽しみを見つける才能であり大好きな一面だ。

<医療関係者への感謝と敬意を示す警察>

また、マドリードは排気ガスによるヨーロッパ有数の大気汚染都市で、その改善のため中心部Madrid Central(マドリード・セントラル)に入ってくる車両を2018年11月から規制してきた。ところが、警戒事態宣言以降、市内の汚染数値が大幅に下がってきている。また、街から人間が姿を消した代わりに、動物が散歩している映像もSNSで流されてくる。もう少ししたら、動物が人間園に人間観察にやってくるかもしれない。世界中で公害が減少してきた、動物が戻ってきたというニュースを聞くようになった。

ウイルスは誰にも平等に迫ってくる。国、ジェンダー、人種、文化、宗教、職業、個々の経済状況など全く関係がない。自分にダメージを与える目に見えない存在を知って、オロオロと隠れ始めた人間。街を消毒しまくり、マスクと手袋で武装し始めた人間。そのような対策は人間側からしたら当然だろう。しかしながら、街を消毒したら、それによって被害を受ける動物や生物も存在するはず。そしてまた、大量のマスクや手袋の消費による廃棄物が膨大に発生しているのも事実だ。Covid-19の発生以降のパニックによって、オーストラリアで起きた大森林火災のことを、既に、国際社会は、忘れ去ってしまっているように思える。昨年終わりから今年初めまで、あれほど報道され心配していたのに。コロナ一色になっている間でも、世界のどこかで地震や干ばつ、森林火災は継続的に起こっている。

<スペインの空っぽの街並みと、感謝の連帯を表す人々>


冒頭で記したとおり、感染した方や亡くなった方、ご家族やご友人等に感染者がいる方たちの心の痛みもすぐに癒えることはないだろう。私の家族や友人、そして自身もそうなったとしたら正気でいられる自信はない。ただ、新型コロナウイルスの存在は何らかの意味があるのではないか。何かのメッセージではないだろうか。今後も発生するであろう新しいウィルス、そして次々に襲ってくる天災は地球の悲鳴なのではなかろうか。厳しい状況の中、そんなことを考え始めている。

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<寄稿者プロフィール>

田中富子/Tomiko Tanaka

2001年よりスペイン在住。2006年自営業ビザ取得と同時に開業。2008年アンダルシア州立ハエン大学にて「バージン・オリーブオイル・テイスターにおけるエキスパートコース」修了後、オリーブ栽培とオリーブオイルの商業コンサルティングを主とし、世界各国のコンテストの審査員を務める。日本とスペインにてオリーブ関連の会議、セミナーにてテイスティングや講演を行い、業界専門誌への寄稿や、テレビ、ラジオ、ドキュメンタリー映画に出演。複数のオリーブ関連協会に所属し、オリーブ文化の普及を行っている。ホームページはこちら。

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