世界コロナ日誌㉗欧州:新型コロナとの「戦い」で軍が活躍。戦闘でも、平和維持活動でもない、軍のコロナ貢献

世界コロナ日誌㉗欧州:新型コロナとの「戦い」で軍が活躍。戦闘でも、平和維持活動でもない、軍のコロナ貢献

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の爆発的流行が始まった今年初めから、欧州では、EU加盟各国の軍が、「ウィルスとの戦い」で大活躍している。本国への帰還を求めるEU市民を迎えるために、中国へ軍用機を飛ばし、軍の医療スタッフや野戦病院設置のノウハウを生かして、イタリアやスペインから重症患者をドイツに搬送し、あちこちで瞬く間に仮設病院を造り、マスクや消毒液などの緊急物資を安全に素早く目的地まで届けてきた。封鎖生活中、感染に怯えてテレビにくぎ付けになっていた欧州各国の市民の目には、緊張した医療現場の様子とともに、軍のこうした活躍が度々映し出された。日本では、震災や豪雨災害では自衛隊の活躍が伝えられるが、コロナ禍でも、日本内外でこんな風に活躍してきたのだろうか。

国内、EU内、国際舞台で

今年3月初め、COVID-19拡大の震央は、欧州に飛び火した。日本の報道では、パニック状態にある欧州各国は、シェンゲン圏内でさえも、あたふたと国境を閉ざし、それぞれ独自の水際対策を展開していたように伝えられたかもしれない。確かにEUとしては、公共衛生は加盟国の裁量分野とされていて、直接的に一様の政策をとることはできないし、感染拡大の勢いと深刻さは、各国政府に一刻一秒の余裕も与えず、速やかな判断と行動を迫った。

欧州では軍や警察の存在は、市民を取り締まるというより、市民生活を守るというニュアンスがずっと強い。こうして軍や警察は、コロナ禍でも様々な局面で駆り出されてきた。

ことに各国軍はそれぞれの国内で、物流や輸送、仮設病院の設置などで大活躍した。だが、興味深いのは、国内に留まらず、国境を越えて連携し、協力した点だ。その背後には、EUの外務省にあたる欧州対外行動庁(EEAS)が速やかに専任タスクフォースを設置して、各国軍の活動を後方支援し、スムーズな情報共有ができるように努めてきた事実がある。同タスクフォースは、加盟各国軍のためのオンラインプラットフォームを開設。軍が民間を支援するための有益な情報やベストプラクティス情報などを共有し、そこからさまざまな教訓を見いだし、今後さらに起こるであろう危機状況に対応するための連携の向上を目指している。

一方、欧州各国軍の国際的な連携を可能にしているのは、欧州機動調整センターMCCE:2007年発足、加盟28カ国)や欧州航空輸送司令部EATC:2010年発足、加盟7カ国)(共に本部オランダ・アイントホーフェン)などの軍連携組織によるところも大きい。戦闘以外の局面で、一つの司令塔の下に各国軍が合同で人道支援・医療救援活動などのオペレーションを実行する制度を整え、平時から演習が繰り返されているのだ。こうした裏方の存在は、欧州市民にもあまり知られてはいない。各国は自国軍の手柄として伝えがちだからだ。だが、COVID-19危機は、ともすれば暴力装置と呼ばれる軍事組織が、軍事衝突以外の局面で、市民社会全体の安全保障・市民保護に、実質的な役割を果たすことができるという好例を社会に示す機会となったといえそうだ。

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<EATCが行ってきたCOVID-19支援の早見表最新版)>
8月21日現在、185オペレーション以上、2700フライト時間以上任務し、3750人余りのEU市民の帰還支援、167人の患者搬送、330トンの救援物資輸送を行ってきたとある。

 

緊急組織動員ができるのは誰か

日本でも、プリンセス・ダイヤモンド号への対応では自衛隊が駆り出されたようだが、専門部隊としての実際に現場で活躍する様子が市民に伝えられただろうか。最近では沖縄県の要請で、自衛隊の看護師20名が派遣されたらしいが、1億2000万の人口を抱える日本の自衛隊の活動規模としては、あまりに小規模に感じてしまう。

EU内で軍が行ってきたCOVID-19対応の活動例は枚挙にいとまがない。その一部を挙げてみよう。

フランスでは、陸軍病院など軍の医療施設と医療スタッフを速やかに重症患者用に充当開始。防衛イノヴェーション局に緊急予算をつけ、市民保護、消毒活動、医療物資や検査機器の緊急輸送・配備、危機管理などの計画・調整を担当。COVID-19支援だけを目的とした「レジリアンス作戦(Opération Résilience)」が展開され、フランス本土ばかりでなく、太平洋、大西洋、インド洋の海外領土も含め、公共サービスを大規模支援、機動力・組織力を発揮した。

ベルギー軍は、取り残されたEU市民を帰還させるため軍用機を中国へ。人工呼吸器・マスクなどの医療機器・物資の緊急輸送、消毒・除染の専門チームの派遣、ホームレスの人々のための緊急支援物資を赤十字へ輸送、COVID-19患者の緊急搬送でも活躍。

ルクセンブルクでは、北大西洋条約機構(NATO)軍の支援を受けた国軍が、仮設病院を設営。130人の空軍兵士がマスク100万枚の梱包配送作業に従事。

スウェーデンでは国内のいくつかの拠点で、志願兵による防衛隊がCOVID-19感染に対して脆弱な人々のための買い出し、移動、その他のサービスで支援。スウェーデン軍は、仮設病院を建て、医療部隊、車両、医療機器などを提供した。

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<スウェーデン軍がヨーテボリ市東病院の外に設置した仮設病院 © Helén Sjöland – CFCF, CC BY-SA https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=88671004>

 

チェコでは、軍が9カ所に検査センターを建てて装備し、国中の移動検体収集チームにも隊員を派遣。

クロアチアでは、軍隊が緊急医療施設のためにテント、ベッド、発電機などを設置。3つの移動医療チームを用意し、空軍のヘリコプターが重篤なCOVID-19患者をいつでも搬送できるよう常時待機。

日本では、病床数を増強するための仮設病院の設置や撤収は、どれだけ行われたのだろう。政府は“スピード感”を重視すると言いながら、不良品の多いマスクを、「郵便」という手段で何カ月もかかって全国民へ配布したというのも、欧州市民の目からは驚愕だ。離島や僻地からの重症患者の搬送に、自衛隊のヘリや特殊医療部隊が活躍したのだろうか。

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<EATCの指揮の下、救援物資を輸送する軍用機 写真提供:European Air Transport Command(EATC)>

欧州各国の軍の支援は、国境を越えても実践された。今年4月、爆発的な感染拡大で医療が崩壊寸前に陥ったイタリアを助けるために、ルーマニアから15名の医師や看護師たちがブカレストからミラノに入ったが、彼らを運んだのはルーマニア空軍機だった。同じ頃、オランダ空軍が運航する医療搬送専用機が、リトアニアからオランダ人やドイツ人の患者をオランダに連れ帰り、巧みな連携プレーで、12時間以内に患者搬送を完了した。また、ドイツ空軍の専用機も、医療崩壊が深刻化していたイタリア北部やフランス東部から、集中治療室の重症患者たちを乗せて、次々とドイツの医療機関へと運んだ。

こうした欧州加盟国の軍による連携プレーでは、前述のように、MCCEやEATCなどの欧州の軍連携組織が強みを発揮した。EATCでは、加盟する7カ国が医療専用機などを共同で使用し、一つの司令塔の下で一つの軍規に基づき、加盟国空軍のスタッフが共同で任務を遂行する。今回のCOVID-19危機では、外国にいるEU市民を本国に帰還させることや、医療緊急物資の空輸で活躍したほか、国際間の戦略的航空医療避難ミッション(Strategic aeromedical evacuation mission)として、イタリア、スペイン、フランスなどからドイツへの重症患者の緊急搬送を行ったのも、実はEATC指揮下での連携プレーだったのだ。EATC内には独自の医療担当部があり、パンデミック発生当初、ここがCOVID-19患者搬送のための詳細なマニュアルを策定し周知していた。それが、いざという局面でも迅速かつ適切に対応できた理由だという。

EATCの司令官ローラン・マルブフ少佐は、「EATCは、COVID-19危機の中、欧州の機動力の中心的役割を果たすことができた。欧州における軍の協力体制を示す生きた証拠となった」と語っている。

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<EATCが使用する患者搬送専用機の内部 © Luftwaffe/Kevin Schrief    The picture has been kindly provided by the German Air Force>

長期戦で市民社会を守る軍の連携

欧州各国は、5月には厳しい封鎖を段階的に解除し始め、COVID-19感染拡大をコントロールして晴れやかな夏を迎えていた。しかし7月に入り、第二波ともいえる局所的感染者数の増大が認められている。この間、各国は政府指針に従って、軍の支援も仰ぎながら病床数(特に集中治療室の数と質)を増やし、PCRや抗体検査のキャパシティーを最大限に高めてきた。試行錯誤しながらも経済や社会生活を動かしながらも、自国の医療キャパシティーを超えず、重症患者・死者数を抑えようと、慎重な手綱捌きを続けている。マスク、防護服、検査などをほぼ無償で、必要な人と場所へ必要な分だけ提供できるようにすることも、ほぼ達成されつつあるようだ。そして、もうじき欧州は新年度、新学期を迎えようとしている。

だが、欧州の人々は、COVID-19との戦いが長期戦になることを知っている。

EUの政策執行機関である欧州委員会で、外務・安全保障政策を担当するジョセップ・ボレル上級代表兼副委員長は、次のように語っている。COVID-19のパンデミックは、今後数年にわたってわれわれの安全保障環境を悪化させる可能性が非常に高く、より強力なEUの安全保障と防衛政策がますます必要とされている。そしてこれからもやって来るであろうパンデミックに際し、民間を支援するために軍の資源や能力を活用する方法を、より強化していく意向であると。

軍の国際連携や協力は、戦闘時の連合軍合同攻撃や国連平和維持活動以外にもあることを、欧州はコロナ禍で実証しているように思う。敵地攻撃能力よりも、使い勝手のよい小型核兵器の開発よりも、長引くコロナ禍や次なるパンデミックが、安全保障や防衛上のより喫緊で現実的な脅威なのではないだろうか――。欧州では、国軍やその国際連携が、長期戦でも市民の強い味方であることを目の前で見せてくれている。

 

トップ写真:EATC指揮の下、重症患者を搬送 © Luftwaffe   The picture has been kindly provided by the German Air Force