環境教育から持続可能な社会を。130年以上の歴史を誇るドイツの環境教育施設

環境教育から持続可能な社会を。130年以上の歴史を誇るドイツの環境教育施設

「自分で経験する時間を与えること」「五感を通した体験であること」「知識より、植物や動物との直接的なかかわりを優先すること」「授業は、自然からの驚きに対していつも開かれていること」…これは北ドイツのハノーファー市営学校生物センター(Schulbiologiezentrum)のコンセプトである。

環境教育施設とは、自然や環境についてレクチャーを受けるところと思っている人が多いだろう。しかし同センターは、その概念を超えた施設である。植物や動物、ビオトープはもちろん、エネルギー、交通、宇宙、ごみなど多角的なテーマを扱う。1883年に創設された同センターは、ドイツで最も古い環境教育施設のひとつであり、かつ先進的。「持続可能な社会は、環境教育から」を実践している。

長年の知識と経験に支えられた授業

北ドイツに位置する同センターは市営であり、学校の理科教育を支援する役割を担う。植物学校や動物学校、森林、野外学校、温室など、総計2000平米の敷地を誇る。小学校から高校まで160校の生徒たちをはじめ、薬草園で薬剤師が講習会を開いたり、教職員や幼稚園教諭が研修をするなど毎年6万人が訪れる。子どもたちが一週間通って森について学ぶコースがあったり、アビトゥア(大学入学資格)のための試験準備講座もある。有志でつくる支援団体が週末、一般向けのプログラムを用意するなど、多くのボランティアがかかわっているのも特徴である。

ドイツの学校は日本のように動物を飼ったり、田んぼや畑をつくったりということがほとんどない。それを補うのが、同センターである。学校は授業に必要な植物や動物を借り、不必要になったら返すことができる。顕微鏡やルーペ、バクテリア観察キットをはじめ、はく製や馬の目、キツネの骨なども貸し出している。ネズミは、小学生は触って生態を観察し、高校生は掛け合わせて遺伝の勉強をする。ネズミを飼い続けたり、増えたネズミの処理に困ることもない。ふくろうが吐き出した食べかすを解体して、ネズミの骨を取り出すのは最高の授業である。

季節の花が咲きほこるセンター © RIHO TAGUCHI
季節の花が咲きほこるセンター
© RIHO TAGUCHI

ここにしかない個性的な「庭」

赤と白の花がある。かけ合わせると2代目はすべて桃色の花になる。ところが3代目は赤が4分の1、白が4分の1、そして桃色が半分となる。メンデルの法則を視覚化した「メンデルの庭」はシンプルだが、実際に目にすると大きな驚きがある。

職員のヨーク・レッダーボーゲンが発案した「色彩の庭」は、赤、黄色、緑、白の4空間に区切られ、それぞれの色の植物が集められている。同じ花でも背景の植物の色合いによって見え方が異なるため、庭作りのヒントになるとともに芸術の授業にもなる。「遺伝の庭」には44種類のトマトや20種類の豆の苗が並び、合間の小道はよく見るとタイルが不規則に色分けしてある。DNAの塩基配列を表しているのである。南米で500年前から品種改良を重ねてきたトマトは、植物の歴史を背負っており、ここでは歴史と遺伝の授業となる。
ジャガイモやズッキーニなど日常的に食べている野菜はいったいどこから来たのか。毎日食べるパンは小麦でできているが、小麦はシリア方面からドイツに伝わった。ドイツには今シリア難民がたくさん入ってきているが、ずっと昔には食べ物も入ってきており、それがドイツの生活に欠かせないものになっていることに子どもたちは驚く。このように植物を通じて世の中の真髄を伝えるのが、ヨークの仕事なのである。
コンポストのコーナーでは、落ち葉、わら、草、新聞、プラスチックなど8種類をそれぞれバケツに保存している。1年ごとにバケツを入れ替え、4年間保存する。プラスチックは全く変化しておらず、プラスチック以外の7種を混ぜたものが一番分解が早い。いろんなものが混じった一般家庭のコンポストが理想的であることがわかり、ごみ問題について考えるきっかけとなる。

「色彩の庭」を考案した職員のヨーク・レッダーボーゲン © RIHO TAGUCHI
「色彩の庭」を考案した職員のヨーク・レッダーボーゲン
© RIHO TAGUCHI

子どもが自ら体験すること

この施設が素晴らしいのは、環境や自然の奥深さを教えてくれるところ。いろんな見方や、かかわり方があることがわかる。太陽について学ぶとき、炎の熱さと役割、核分裂、地球温暖化、太陽系と広がっていく。実際に模型を使って地球温暖化のしくみを再現したり、太陽と惑星がどれだけ離れているのか屋外のモデルで実感できる。自転車をこいで電気を起こすのがいかに大変であるかを体感し、ソーラーハウスで太陽光の実験をするのは楽しそうだ。筆者も、ハチの巣をつぶして蜂蜜を絞ったら、びっくりするほどおいしかった。学校で知識として学んだことを、確認できる場所であり、学校と自然の架け橋となっている。子どもが自ら体験し、考えることを重視している。

動植物について、それぞれの生態と授業での取り上げ方が小冊子にまとめられている。冊子は300種類以上にのぼり、教師やスタッフが長い歳月をかけて獲得した知識と経験の集大成となっている。だからここの授業は厚みがあり、実に奥が深い。職員が熱心なのにも圧倒される。このような包括的な施設はドイツでも他に例がなく、多くの人の学びの場となっている。

「エネルギーの庭」で、太陽エネルギーについて学ぶ © RIHO TAGUCHI
「エネルギーの庭」で、太陽エネルギーについて学ぶ
© RIHO TAGUCHI

トップ画像:季節の花が咲きほこるセンター © RIHO TAGUCHI
学校生物センター(Schulbiologiezentrum) http://www.schulbiologiezentrum.info/