ISが若者を魅了する本当の理由

ISが若者を魅了する本当の理由

仲良し三人組の失踪

昨年2月、東ロンドンから三人の女子中学生が家出した。地元の公立校に通う仲のよい友達同士。親には「日帰りで出かけて来る」と告げて実はロンドン郊外ガトウィック空港に直行、トルコのイスタンブール空港へと飛んだ。そこからシリアに渡り首都ラッカに。三人は、いずれもロンドン生まれのイスラム系移民二世で、過激派組織「イスラム国(IS)」の戦士たちの花嫁となるためにイギリスを後にしたのだった。空港の警備カメラに映った少女たちの姿は、世界中の新聞の一面をにぎわした。

三人のうち最年長のカジザ・サルタナは、この7月、ロシア軍のシリア空爆によって命を落とした。

イギリスの家族のもとに、非公開のルートで知らせが入ったと言うが、遺体を引き取るすべもない。「カジザはISに入ってまもなく、失望したと連絡がきた。他の二人も家出を心から後悔し、帰国したがっていた。しかし、いったんISに入国したら禁固刑も同じ。脱走を試みた女性が、みなの前で残酷に殺されたのを見て三人ともとどまっていた。娘を助けだすため、あらゆる手を尽くしていたところだった」と、遺族は重い口取りで語る。

去年までは、イスラム教徒に限らずヨーロッパ全体、アメリカ、オーストラリア、アフリカなど世界の国々から若い女性達が多数、ISへ渡っていた。イギリスでは今年始めまで、毎月1~2人が渡航していたとされる。中には、先にシリアに渡った兄弟の後を追うケースもあったが、ほとんどはIS女性組織によるソーシャルネットワークを駆使した「花嫁勧誘キャンペーン」に洗脳されての失踪だった。

現在は渡航者数がかなり減っている。
ネットでいくら「揃ってハンサムでクールなIS兵士」たちの「ジハディ・ブライド(聖戦士の花嫁)」になることの「かっこよさ」を訴えても、「誰でも家がもらえて無線LAN/WiFi完備の快適な暮らしが待っている」とうそぶいても、そこはソーシャルネットワークの強み。
実際の暮らしはまったく違う、という内部からの告発が漏れ始めたからだ。

クールな聖戦士?

各国の新聞報道だけを見ていると、欧米の若い白人女性が多数イスラム教のテロリストに憧れて家出しているようなイメージを受ける。実は、ほとんどがイスラム教国からの移民や難民二世だ。ISに参加する男性達、世界各地で起こっているテロ事件の主犯にしても、国籍だけ書けばイギリス人、フランス人と、名前を見るまで肌の色を想像することはできない。ロンドンで5年前の7月7日に起こった地下鉄爆発の犯人グループは、イギリスの地方都市で生まれ育ったパキスタン移民二世で、それまで不審な活動が何も見られなかったことから、警察のレーダーからも漏れていた。

彼らに共通しているのは、たいして敬虔なイスラム教徒でもなかったのに、短期間で過激化していることだ。また、過激派とのコネクションが、インターネットを通した間接的なものなのであることから、「ベッドルーム・ジハディスト」と呼ばれている。

ISの人質となったが解放された人達は、異口同音に「若い兵士たちの一番の関心事は女性とセックス。次にスーパーカーとお金。合間には、マーズバー(チョコバー)や、レッドブル(カフェイン飲料)が、シリアではなかなか手に入らない」と不満を漏らす。「欧米文化を批判してはいたが、ISの掲げる理想についてなどただの一度も真剣に話しているのを聞いたことがなかった」と語っている。家出した女子中学生の部屋に残っていた持ち物リストを見ても、コスメ、下着、ブーツ、電動脱毛シェーバーなど、まるで楽しいホリデーに出かける支度のようだ。

ISの真の魅力

こうした情報をつなぎ合わせていくと、意外な像が浮かんで来る。
どうやらこのテロリストとその幼い花嫁たちは、宗教的な理想郷実現のために家族も命も捨てる、という悲壮な決意で生まれた国を離れたのではないということだ。ではいったい、何が彼らが惹きつけたのだろう。それは、ISの一員という「強力な帰属意識」だ。自分の生まれ育ったイギリスでは実感できなかった、「自分の国」と呼べる存在をやっと見つけたのだ。

実家はイスラムの教えに沿って暮らしているけれど、一歩外に出ればまったく相反する価値観と文化に満ちている。親は、子供に同じイスラム教徒と結婚し、出身国の宗教、文化、言語をイギリスという環境の中で温存し継続してほしいと願っている。中には逆に、親のほうがイギリスに同化しようと努力していることに対し、子供が反発しているケースもある。どちらの場合も、その根底に隠れているものは同じ。イギリスに生まれ育ってもイギリス人として扱われない、ということ。

イギリスに生まれ育ったのにイギリス人と見なされない私

たとえば学校では、同じイギリス人であるはずの白人生徒や教師から見下されたりする。
ロンドンはイギリスの中でも最も非白人人口が多く、エリアによっては移民や難民とその子孫ばかりという学校もある。そのような所では少数派の白人生徒が人気者グループだ。さらに、アラブ系がアフリカ系を見下したり、インド系が東洋系を軽蔑したりと、有色人種同士での差別もある。差別はあからさまな言動によって表現されることは少ない。ほとんどの場合、日常生活の「空気」の中にある。だから、いくらヘイトスピーチを禁止しても、メディアにおけるPC基準(政治的に公正な表現)を厳しくしても、この空気は変ることがない。

こうした環境に育った移民の子供達は、「私っていったい誰?」という疑問を胸のなかにつねに持っている。大人になって、「私は私!」という、肌の色にも育った環境にも関係ないアイデンティティーを確立した人はもちろん大勢いる。教育度が高く、専門的な職業についたり、白人を雇用する立場に昇った人々だ。宗教は「私事」にとどめ、見た目からは何教を信じているかわからない。社会に蔓延する差別の空気にも負けない抵抗力がある。ロンドン市長サディク・カーンはその代表だろう。この人たちのような自信を確立する前に、ISや他の過激派のような組織からの勧誘に出会ってしまうと、「私の居場所がここにある!」と思い込んでしまうのだ。

この数ヶ月の間にISの勢いは目に見えて衰えてきており、いまや多数のIS兵士やその幼妻たちが親のもとに帰ることだけを願っていると言われている。亡くなったカジザの遺族は「もう少しで救出できたところだったのに」と悔し涙を拭わない。しかし、たとえISが滅びても、移民や難民の子供達が「私はイギリス人」と胸を張れる社会が実現しない限り、第二、第三のISが何らかの形で現れ、彼らを磁石のように惹き付け続けることだろう。

トップ画像:© Yajirushi Go