#MeToo 米国で吹き荒れるセクハラ告発の嵐

#MeToo 米国で吹き荒れるセクハラ告発の嵐

女性たちのセクシャル・ハラスメント告発が米国を揺るがせている。ソーシャルメディアでセクハラ被害を公表する「#MeToo(私も)ムーブメント」に勇気づけられ、芸能界、メディア、産業界、政界と米国社会のあらゆる場所で権力を持つ男性から性的被害を受けた女性たちが、次々と声をあげているのだ。米国連邦議会でも、セクハラ横行の事実が明らかになり、議会内のセクハラ対策強化のための#MeToo法案が浮上している。

とまらない#MeTooムーブメント

70年代半ばに「セクシャル・ハラスメント」という概念が米国社会で認知されるようになってから40年あまり。しかし現実には、告発に伴う風評被害や報復を恐れて公表せずに泣き寝入りする女性がほとんどだ。勇気を出して告発した女性たちが、事情聴取や裁判で「セカンド・レイプ」と呼ばれる心理的、社会的なダメージを受ける状況に追い込まれる一方で、加害者は明確な罪を問われることなくうやむやな結果に終わるケースも多い。このため、セクハラは社会の影に隠れ、実際にどれだけ多くの人が経験しているのかが見えていなかったのが実情だろう。

しかし#MeTooムーブメントにより、これまでに被害を受けた女性たちが次々と告発に立ち上がり、セクハラが社会のあらゆる場で蔓延していることを証明しつつある。さらに今回は、ハリウッドの超大物プロデューサーであるハービー・ワインスタイン、俳優のケビン・スペイシー、人気コメディアンのルイス・C・K、ファッション界の人気写真家テリー・リチャードソン、有名シェフのジョン・ベッシュ、権威あるジャーナリストとして知られてきたチャーリー・ローズやベテラン政治評論家のマーク・ハルぺリンをはじめとする大物らが、一連のセクハラ告発によって職を失うなど、過去の行為の報いを受けている。

米議会でもセクハラが横行

さらには米国連邦議会内でも、ジャッキー・スピアー下院議員(民主、67歳)と、バーバラ・コムストック下院議員(共和党、56歳)が公聴会で「男性議員が露出行為をしたため、辞職した女性スタッフがいる」、「現職下院議員でセクハラに関与した議員が2人はいる」と証言。またスピアー氏は、スタッフ時代の20代半ばに、50代の上司に無理やりキスされたという自らの被害体験も公表した。

連邦議会でのセクハラ横行を訴えるジャッキー・スピアー議員

またラジオパーソナリティのリアン・トゥイーデンさんは、コメディアン時代のアル・フランケン上院議員(民主)から、2006年のアフガニスタン駐留兵士の慰問ツアー中に、「無理やりキスされた」と話し、飛行機の中でフランケン氏が眠っているトゥイーデンさんの胸を触っている写真も公表した。ほかにも、フランケン上院議員と記念写真を撮った際に、お尻を触られたという女性たちが名乗りでた。

リアン・トゥイーデンのツィッター 11月16日

さらには過去に複数の女性スタッフが、議会最長老で市民権運動の指導者でもあるジョン・コンヤーズ下院議員(民主、88歳)に対してセクハラでの苦情を申し立てていたことが明らかになった。

セクハラ加害者に有利なシステム

議員スタッフや研修生らは、それぞれの議員事務所に雇用されているため、連邦議会におけるセクハラやパワハラ、人事のあり方に対する統一規則を定める「人事部」的な部門はない。あるのは人事問題も含め、議会内での様々な紛争を処理する「Office of Compliance(コンプライアンス室)」である。

しかしセクハラを同室に報告しても、まずは通報者(被害者)が30日間の「カウンセリング」を受けることが義務付けられており、その後、30日間の「調停」が義務付けられている。そこで示談にした場合は、守秘義務契約を結ぶことになる。また示談にせず、被害者がさらに行政審判または民事訴訟に進みたい場合は、その前に冷却期間としてさらに30日待たなければならない。

セクハラや不当な扱いなど様々な問題で示談が成立した場合の和解金は、税金から支払われている。コンプライアン室の設置以来、現在まで20年間で、こうした示談金の支出総額が1700億ドル(約19億円)にのぼることが明らかになった。しかし守秘義務契約のため、これまでに誰がセクハラで示談したのかは公表されずじまいだ。
「現在の仕組みは加害者を守るための手続き。この過程は、セクハラと同じかそれ以上にひどいと言った被害者がいます」と、スピアー議員はテレビのインタビューに答えた。セクハラ防止研修はもちろん、被害者が自分の権利を知り、もっと被害者寄りの仕組みに抜本的に変える必要がある。また、セクハラの示談金を税金で支払うのは不適切だとして、スピアー議員をはじめ両院の女性議員は超党派で、「Me Too議会法案」を提案している。

知らぬ存ぜぬが通用するのか

もう一つ、政界のセクハラ問題で注目されているのが、アラバマ州で12月12日に行われる上院補選の共和党候補者ロイ・ムーア元判事(70歳)である。同判事が30代の副地方検事だった時に、性的な接触や性的暴行を受けたと告発する女性が次々と現れた。これまでに名乗り出たのは7人。被害当時14歳だったという女性を含め、女性たちはいずれもティーンエージャーの時に被害を受けたという。

連邦議会共和党はムーア氏に出馬辞退の圧力をかけているが、ムーア氏自身は「40年も前の話が、なぜ選挙前の今でてくるのか、フェイク・ニュースの典型だ」と述べ、女性たちの主張をすべて否定。アラバマ州共和党もムーア氏支持の姿勢を崩していない。

ムーア氏の対応は、まるで大統領選挙時のトランプ氏のようだ。過去に13人の女性たちがトランプ氏からセクハラを受けたと公表しているが、トランプ氏はこうした女性たちを「嘘つきだ」として、選挙が終わったら女性たちを訴えるとまで言っていた。

2005年には、テレビ番組司会者との会話でトランプ氏が「こっちがスターだと、女はやらせる。何でもできる」と発言している音声ビデオも報道された。

それでもトランプ氏は「男がロッカールームでするような会話で、何年も前にした内輪の話だ」と軽い調子で釈明するだけだった。

アラバマ州のムーア氏についても「彼はやっていないと言っている」と擁護し、11月26日に民主党に議席を渡すのはアラバマ州にとって最悪だといった内容のツィートで、事実上、ムーア氏を推している。

11月29日の朝、NBCテレビのニュース番組「トゥディ」ショーから、看板司会者のマット・ラウアー氏の姿が消えていた。同氏もセクハラ行為で、NBCテレビを解雇されたというニュースが流れた。連日のようにセクハラ疑惑の結果として、解雇される例が続いている。しかし政界では、セクハラ疑惑が浮上した議員も、議員候補者も、そして大統領までもが知らぬ、存ぜぬを通そうとしている。#MeTooムーブメントに立ち上がった女性たちは、そんなダブル・スタンダードを、いつまでも許してはいない。

複数の女性からセクハラ告発を受けていた米議会最古参のジョン・コンヤーズ下院議員(民主党、88歳)は12月5日、不適切な行為についてはすべて否定しつつも、辞職を発表した。また、合計で8人の女性からセクハラ告発を受けたアル・フランケン上院議員(民主党、66歳)も12月7日、辞職を発表した。フランケン上院議員は最初に告発したリアン・トゥイーデンさんらに謝罪し、倫理委員会の調査に協力すると言っていたが、その後も告発者が続き民主党女性議員らからも辞職圧力を受けていた。

一方、12月12日に上院補選を控えたアラバマ州のロイ・ムーア共和党候補者は、すべてのセクハラ疑惑を否定し続けている。今週に入り、トランプ大統領はムーア候補を推薦する意思を明確に表明し、当初、セクハラ疑惑でムーア候補を非難していた議会共和党も、同候補支援に方向転換した。しかし、今回の現職民主党議員の辞任により、ムーア氏は当選したとしても、再び自らのセクハラ疑惑に厳しい目が向けらることは確実だろう。

トップ写真:
2017年1月21日のWomen’s Marchで、「トランプはアメリカを再び破廉恥な国に」というプラカードを掲げるデモ参加者 © Mark Dixon from Pittsburgh, PA