「脱原発・脱被ばく」を総選挙の争点に 国際女医会でも問題視された日本政府の被ばく対策

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2011年3月の東電福島第一原発の事故以来、「原子力緊急事態宣言」が発令したまま被ばくのリスクが続く日本で、三度目の選挙戦が始まった。国際女医会の会議で、被ばくによる健康被害の問題を発表した青木正美医師は、当事者の日本ではなぜ事故の教訓が政治に反映されないのかと問われた。今度こそ「脱原発」と「脱被ばく」が選挙の争点になってしかるべきではないのか。

立ち上がった「日本女医会」

115年の歴史をもつ「日本女医会(以下、女医会)」(注1)の医師三名が、8月に香港で開かれた「国際女医会-西太平洋地域会議」(注2)で、被ばくによる健康被害の問題と女医会の取り組みについて発表した。

発表者の一人である青木正美氏(青木クリニック院長)にインタビューをすると、日本政府の被ばくに対する無策がもたらした多くの問題点がみえてきた。女医会の活動と国際会議についての青木氏の話を辿りながら、総選挙を目前にした今こそ「脱被ばく政権」を目指す必要性があることを確認していきたい。

子どもの甲状腺がんが増加する中で、国から十分な支援を受けられない患者が増えているため、女医会は「3・11甲状腺がん子ども基金(以下「基金」)」(注3)と連携して活動している。「基金」は、甲状腺がんを告知されて、孤立したり経済的に困窮したりした子どもと家族を支援するために設立されたNPO法人だ。

香港で発表した三名のうち、青木氏と牛山元美氏(さがみ生協病院)は「基金」の顧問を務める。会長の前田佳子氏(昭和大学病院)は、女医会から「基金」に寄付金を贈った。女医会の東京都支部副会長で、「基金」の登録者のために無料電話相談を始めた青木氏はこう語る。「いずれは甲状腺がんの患者さんだけでなく、被ばくによる健康影響を心配して避難している人たちも、気軽に相談できるようなネットワークを広げていく第一歩なのです。」

国が無策である以上は、このように民間が設立した「基金」に医師たちが協力し、被ばく者への支援方法を模索していくしかない。だが、民間でできることには限界もあるだろう。だからこそ、「脱被ばく政権」を選び、国レベルで対策を講じる必要があるのだ。

政治を動かしてと発破をかけた韓国女医会会長のパク・キュン・ア氏(写真右から2番目)と日本女医会のメンバー。左から青木正美氏、 牛山元美氏、一番右が前田佳子氏
政治を動かしてと発破をかけた韓国女医会会長のパク・キュン・ア氏(写真右から2番目)と日本女医会のメンバー。左から青木正美氏、  牛山元美氏、一番右が前田佳子氏 (写真提供:青木正美氏)

フクシマだけの問題ではない

「福島原発事故後の甲状腺がんの現状−臨床医としての報告」と題した発表は、東京電力福島第一原発の1号機と3号機における爆発の写真で始まった。「世界版SPEEDI」が示す地図からは、甲状腺がんの原因とされる放射性ヨウ素131も大量に放出され、福島県以外の東日本も広域に汚染されたことがわかる。だが、日本政府は、大規模な被ばく調査を行わなかった。

福島県で「県民健康調査」が実施されているのは、チェルノブイリ原発事故後、子どもの甲状腺がんが被ばくによる健康被害として明らかになったからだ。それなのに、福島県以外の汚染地域では健康調査がない。会場からも、「なぜ福島県だけでしか検査をしないのか」という疑問の声があがった。

実際に、小児甲状腺がん、またはその疑いと診断された人は、福島県以外にもいることがわかっている。「基金」の申請者だけをみても、23人(2017年3月31日まで)の受給者は福島県外の人だった。一方、福島県から申請のあった7例のように、県の甲状腺検査以外で発見されたケースもある。

福島では30万人余りの受診者から152人の甲状腺がんが確定しているが、そのうちの65人は「異常なし」とされた2年後にがんと診断された。術後診断では、転移や浸潤により手術が急がれた症例が125例の96%を占めている。いずれも多すぎる数字だが、日本では被ばくとの関連は認められていない。会議の参加者、すなわち外国の女医たちは、「放射線の影響ではないなど、誰も信じていない」とあきれ気味だった。

発表では、「福島県の調査では、経過観察にまわされた約2,500名の中から甲状腺がんの手術を受けた人が出ても、公表されない仕組みになっている」と、現行の調査方法では正確な症例数が把握できないという問題提起もした。

しかし、日本ではこのように不十分な福島県だけの調査すらも縮小しようとする動きがある。懸念する女医たちは、「今後、さらに情報が公開・報道されなくなり、忘れられていくかもしれません。福島県外でも調査を!世界のみなさん、福島、日本に注目してください」と訴えた。

隣国の政権を変えたフクシマ

「香港の会議では、日本からなかなか健康被害の詳細な情報が出てこないことを、皆さんとても心配して気にかけておられました。当事国なのに、あなたたちは何をのんきにやっているのといわれているような気がしました」と、青木氏は振り返る。

「なぜ、日本では国会議員にもっとアピールをしないのですか、女性の政治家だけでなく女医も社会の中で影響力をもっているのだから、もっと頑張ってほしい」と、台湾と韓国の女医会会長から同じような内容の言葉があったというのが、いかにも示唆的である。

台湾と韓国では、福島原発事故の教訓から、すでに「脱原発政権」が誕生している。両国ともに、日本以上にエネルギー資源の海外依存度が高いにもかかわらずだ。隣国の女医会会長からの言葉は、日本女医会だけではなく、選挙を目前にした日本の有権者と候補者全員が重く受け止めるべきだろう。

そして、忘れてはならないのが「原子力緊急事態宣言」は今なお解除されていないことだ。すなわち、同宣言第十五条の「・・・検出された放射線量が、異常な水準の放射線量の基準として政令で定めるもの以上である場合」であり、被ばくのリスクは依然として続いていることになる。

女医会の医師たちは香港の発表で、「ほんのわずかでも被ばくすると、がんになる可能性は高くなる。絶対安全なのはゼロ線量、すなわち被曝しないこと」と主張した。広島、長崎の原爆被爆者を60年以上追跡調査している放射線影響研究所が、「低線量であっても発がん率を高めうる」と、その報告(2012年)で明白に述べているからだ。

国際会議で提起されたように、小児甲状腺がんと健康調査をめぐる問題解決も喫緊の重要課題だ。今回の総選挙では、被ばく問題に真摯に取り組む「脱原発・脱被ばく政権」を選ぶべきなのではないか。原子力緊急事態下での選挙であることを、誰もが思い起こして。

<トップ写真>「国際女医会 西太平洋地域会議2017」で、初めて健康被害を発表。12か国から250人参加。 © Medical Women’s International Association 2017

(注1)「日本女医会」は、国家資格を持ちながら男性医師と対等に扱われない当時の女性医師の社会的地位向上と研鑽のために、1902年に設立されて活動を続けてきた。2017年3月現在の会員数1,234名。公式ページ:http://www.jmwa.or.jp/

(注2)1919年に設立された「国際女医会」は、現在90カ国からの個人・団体会員を擁する。8つのブロックに分かれており、その一つである西太平洋地域会議は、3年に1度開催される。オーストラリア、日本、韓国、モンゴル、フィリピン、香港、台湾の「女医会」のほか、ニュージーランドなどの個人会員もいる。http://mwia.net/

(注3)「3・11甲状腺がん子ども基金」http://www.311kikin.org/3・11事故時に18歳以下で25歳までに甲状腺がんを発症した人で、放射性雲(プルーム)が通過した1都15県に居住していた人を対象に、申請者に10万円を給付。「日本女医会」が、登録者向けの電話相談も行なっている。