シリアで拘束の安田氏「謝罪」の是非~日本の新聞5紙の記事から~

シリアで拘束の安田氏「謝罪」の是非~日本の新聞5紙の記事から~

内戦の続くシリアで武装組織に拘束され、3年4か月ぶりに解放された日本人フリージャーナリスト、安田純平氏は日本に帰国後、2018年11月2日東京でひらいた記者会見で、日本政府が当事者になったことを謝罪し、紛争地に取材に行くのは「自己責任」で、自分の行動に批判があるのは当然だと述べた。

安田氏が、解放に努力してくれた関係者に感謝するのは当然として、謝罪をめぐっては、賛否両論がある。安田氏が謝罪したのは、ネットでの厳しい批判があったからだと推察されるが、危険地取材を、「自己責任だ」と切り捨てる一部世論を是とするのか、危険地だからこそ真実を知るための取材が必要で拘束された時には、関係者が解放努力をすることは当然とするのか、日本と外国では、受け止め方に温度差があるように思える。

そこで、記者会見の翌日の11月3日付の朝日、毎日、読売、産経、東京の朝刊5紙の会見内容を伝える記事(東京都内最終版)を参考に、この問題を考えてみた。なお、毎日新聞は11月4日付の朝刊でも関連記事を掲載していたので、この記事も含めることとした。

安田氏の拘束から解放まで

安田氏は2015年6月23日、トルコ南部からシリアに入国したが、その後消息がわからなくなった。2016年5月に救助を求める動画が拘束した組織から公表された。この事件について国際ジャーナリスト連盟(IFJ)東京事務所は、ブリュッセルにある本部に、なんらかの情報がないか問い合わせところ、本部からは、「シリア入国後に、現地ガイドを変更し、新たなガイドに騙されたのではないか。シリアでの取材経験もあったようだし、現地慣れして油断があったのではないか。拘束したのはヌスラ解放戦線だと思われるが、残念ながらIFJとして連絡可能なチャンネルはない」とのことだった。

実は、武装組織「イスラム国」に拘束され、2015年1月に殺害されたフリージャーナリスト、後藤健二氏に関して、生存中の2014年に、IFJ本部から「日本のジャーナリストからの救援メッセージを届けられるかもしれない」との連絡があり、IFJ東京事務所が解放を要請する動画を本部で収録したことがあった。身代金目当ての拘束であるから、解放メッセージが役立つとは思えなかったが、IFJのネットワークに期待をつなぐしかなかった。

こうした経緯があったので、安田氏が消息不明になったとき、IFJ本部に現地での聞き込みを依頼したのである。

安田氏は記者会見で、シリア入国前に依頼したガイドと違う人に案内され、不審に思いながらもついていって拘束されたと、不注意だったことを認めている。

安田氏からの救援を求める動画は、このあとも公表されたが、最後は2018年7月で、安田氏が韓国人を名乗って救助を求める動画が公表された。

身代金が払われたかどうかを含めて、この後の経緯は不明だが、2018年10月22日に安田氏は、突然解放された。日本政府によれば、解放にはカタール政府とトルコ政府の尽力があったという。

安田氏は2018年10月25日、日本に帰国し、1週間後の記者会見で、拘束から解放まで体験をつぶさに説明した。

多くの戦闘が繰り広げられてきたシリア。安田さんはトルコ国境から、シリア北西部のイドリブ(Idlib)県に入り、そこで拘束されていたとみられる。© NordNordWest Spesh 531 – Creative Commons
多くの戦闘が繰り広げられてきたシリア。安田さんはトルコ国境から、シリア北西部のイドリブ(Idlib)県に入り、そこで拘束されていたとみられる。© NordNordWest Spesh 531 – Creative Commons

拘束「完全に私のミス」、「批判当然」

拘束は「完全に私のミス」―これは11月3日付読売新聞朝刊の32面に掲載された安田氏会見の記事の見出しである。

同記事は冒頭に、「安田さんは『ご心配をかけたみなさんにおわびします』と謝罪し、ガイドではない人について行って拘束されたことは『完全に私のミスだった』と話した」書いている。

さらに続けて、「安田さんは会見で武装組織の人質になったことについて、『私自身の行動によって日本政府が当事者にされてしまい、申し訳ない』と謝罪し、『(日本政府には)できる限りの努力を続けてもらった』と述べた。『自己責任』との指摘については、『紛争地にあえて入った以上、自業自得だと考えている』と話した」と書いている。

産経新聞の1面記事の見出しには、安田さん『批判当然』」、とある。記事冒頭部分は、ほぼ読売新聞と同じで、「私の行動によって日本政府が当事者になり申し訳ない」と謝罪。いわゆる自己責任論にも触れ、「紛争地に行く以上は自己責任で、自業自得だと思っている。私の行動に批判、検証をいただくのは当然」と記している。

朝日新聞の1面記事の見出しは 安田さん「迷惑かけた 批判は当然」となっている。読売、産経とほぼ同じである。

紛争地の取材は必須

一方、毎日新聞の1面記事の見出しは、「紛争地の取材必要」となっており、生命の危険を伴う紛争地での取材を肯定する立場からの見出しとなっている。東京新聞も「紛争地取材は必要」で、同じである。

東京新聞の「見出し」になった部分の記事には「ジャーナリストの紛争地取材について『そこで起きていることを見る存在は絶対に必要』と強調。一方で、自身の今後については『全くの白紙で分からない』とした」とある。

1面記事では触れなかった朝日新聞は35面の記事で、「紛争地を見に行く存在、必要」との見出しで記事をまとめている。

安田さんが捉えられ拘束されていたとみられるシリア・北西部イドリブ県の風景。 オリーブの木が多く生えたのどかな風景が広がり、ビザンチン様式の寺院跡など多くの遺跡があるという地にも、戦闘が起こっているという。© Qasioun News Agency, Idlib 2017
安田さんが捉えられ拘束されていたとみられるシリア・北西部イドリブ県の風景。
オリーブの木が多く生えたのどかな風景が広がり、ビザンチン様式の寺院跡など多くの遺跡があるという地にも、戦闘が起こっているという。© Qasioun News Agency, Idlib 2017

「自己責任論」に関して

「自己責任論」に関して、東京新聞は31面の記事で次のように書いている。「拘束されたのは自己責任だとする批判を、どう受け止めるか質問され、『紛争地は日本政府が救出をするのに厳しい環境。だからこそ退避勧告を出している。相応の準備をして入り、身に起きることは自業自得』と答えた。そのうえで、『(拘束された)本人がどんな人物であるかで行政の対応が変わるとなると、民主主義国家として重大な問題』と強調」

毎日新聞は29面の記事で、「安田さんが危険を知りながら紛争地に入ったことに対し、インターネット上で批判が絶えない。2日の記者会見後も厳しい投稿があった。識者は『現地取材がなければ状況は分からない。ジャーナリズムの重要性への理解を地道に広げる必要がある』と呼びかける。

ツイッターには『今回も日本政府にお尻を拭いてもらった。その政府を批判すれば非難を浴びる』『殺されても文句は言えないはずだ』と批判がある一方、

『安田さんが自己責任を認めたので批判するのをやめます』といった投稿があった。

海外取材経験の長い国際ジャーナリストの春名幹男さんは「当時のシリアはロシアの介入もあって不明なことが多く、取材が必要な状況だと安田さんが考えたのは理解できる。記者会見では自分を責めて『凡ミス』だと言ったが、そうは思わない」と安田さんに同情した。

山田健太・専修大教授(情報法)は『自己責任論に基づいて批判する風潮が定着しており深刻だ。戦争、シリアは遠い問題だと受け取られており、メディアへの不信感も根底にあると感じる』と話す。

シリアでの戦闘の様子を示す写真 © Christiaan Triebert – Azaz, Syria 2012
シリアでの戦闘の様子を示す写真 © Christiaan Triebert – Azaz, Syria 2012

外国人記者、「謝罪に違和感」

朝日新聞は35面の記事で、外国人記者、「謝罪に違和感」との見出しで、外国人記者の見方を伝えている。

「日本に住んで15年以上のフランス人ジャーナリスト西村カリンさんは、冒頭の謝罪に首をかしげた。『彼は記者の仕事をして事件に巻き込まれた。フランス人記者なら、心配してくれた方々に感謝するだろうが、謝罪はしない』

フランスでは2014年、シリアで過激派組織「イスラム国」(IS)に約10カ月拘束された記者4人が解放された。オランド大統領(当時)は4人を空港に出迎え、『報道の自由に尽くす、優秀な同胞がいることを誇りに思う』と述べた。『日本人にとって中東の紛争は、歴史的にも地理的にも遠い出来事』―報道への関心や理解が得られていないと西村さんは見る。

無事帰国 なぜ批判
外国人記者 安田さん「自己責任論」に驚き

毎日新聞は11月4日の朝刊27面に、このような見出しで、大手海外メディアの東京支局長、特派員として日本を取材する3人のコメントを掲載している。

●英紙「タイムズ」東京支局長 リチャード・ロイド・パリ―氏
これまで多くの英国人も過激派組織に拘束されました。最も有名なのは、1991年にレバノンで人質になったジャーナリストが5年ぶりに解放された件でしょう。国を挙げて帰国を祝福し、彼を批判するという発想はありませんでした。これは今も変わりません。
私も過去にイラクなどの紛争地で取材したことがあります。できる限り現場に近づき、何が起きているのか正確に伝えるのはジャーナリストの使命です。危険は見極めますが、時にはリスクを取る必要もあります。その結果、安田さんのような犯罪の被害者になってしまった人を責めてはなりません。
日本は中東の紛争と無関係ではありません。石油を依存しており、中東政治の影響を受けます。外国メディア任せではなく、現場で起きていることを伝えようとする安田さんのようなジャーナリストは重要です。彼を批判する人々はジャーナリストが担う役割を正しく理解していないように思います。

●仏紙「ルモンド」東京特派員 フィリップ・メスメール氏
<jiko sekinin>という日本語を使って、安田さんへの批判が起きている現状を伝える記事を書きました。フランスにも同じような言葉がありますが、今回のような場面では使いません。
日本社会は和を乱す人を嫌うため、社会の規則にあらがう人を好まない。そのため、政府の退避勧告に従わなかった人のために資金や労力を払う必要はないと考えるのでしょう。シリアに行ったこと自体が悪いことのように語られていることに驚きました。
フランスでは4年前に過激派組織「イスラム国」(IS)に拘束されたジャーナリスト4人が解放された時は、大統領が出迎えて帰国を喜びました。彼らは正確な情報を届けるため、命がけで危険な紛争地に行ったのです。
日本では中東に限らず、海外の問題に関心を持つ人が減っているように感じています。今回のような批判が起きる背景には内向きのナショナリズムの高まりがあるのではと心配しています。

●朝鮮日報 東京支局長 李河遠氏
韓国でも2007年、アフガニスタンに行ったキリスト教団体の23人が旧支配勢力タリバンに拉致され、2人が殺害、21人が解放された時に「無謀だった」と激しく非難されました。日本と同じ「自己責任論」です。この影響は大きく、紛争地に行く人が減って重要な地域への関心が落ちてしまったと言う人もいます。日本も安田さんのような人がいなくなれば情報が入らなくなるかもしれません。
「国に迷惑をかけた」という発想になるのは世界でも日本だけではないでしょうか。悪いことをしたら無視される「村八分」という言葉がありますが、そうした文化の影響でしょうか。非難されるべきなのは安田さんではなく拉致した武装組織でしょう。
驚いたのは野球のダルビッシュ有投手、サッカーの本田圭祐選手が自己責任論に反論したことです。韓国ではスポーツ選手が政治的な発言をするのはまれで違う文化がある証しです。匿名ではなく、実名の議論が大切だと感じています。

外国特派員協会での11月9日会見の模様
Official channel for The Foreign Correspondents’ Club of Japan – FCCJ (公益社団法人 日本外国特派員協会 会見映像 オフィシャルサイト)より

おわりに

「自己責任」とは、あくまで自分の取材行動に責任を持つことだと、IFJ東京事務所は考えている。したがって、IFJ・Japanフリーランスユニオンのメンバーは、紛争地に入る際は、十分な安全確保策を講じている。命の危険を覚悟しているし、万が一殺害されてもやむをえないと思ってもいる。それでも、紛争地から真実の情報を届けたいと、現地取材に踏み切るのである。

安田氏の場合、現地で油断があったとすれば、それは彼の責任で自業自得と言われても仕方がないが、彼が紛争のシリアに現地状況を知るために入国したことを責めるのは次元が違う話である。たとえ、政府の退避勧告が出ていたとしても、である。

かつてIFJ本部事務局長をしていたアイダン・ホワイト氏は、「日本の人は政府の情報を信じすぎる傾向があるように思う。政府は都合の良い情報は流すが、都合の悪い情報は流したがらない、ということを日本のジャーナリストは理解して、自分の眼で情報を確かめる必要がある」と言っていたことを想起させる記者会見であった。

2018年11月8日脱稿

<トップ写真>安田さんの会見内容を伝える日本の新聞 © OKUDA, Ryouin